前回に続いて、福岡市の消防について。
前回は火を消し救急搬送をする「警防」についてでしたが、今回は火災予防に従事する「予防」のお話です。

まず、基本的なおさらいを。
はっきり言って、予防業務は消火活動や救助活動と比べると地味な存在です。
しかし、建築確認と並行して行われる消防同意事務、消防用設備の設置の指導、危険物の規制、防火対象物への予防査察など、火災が発生した場合の被害軽減を目的とした消防の重要な業務です。
日本の建築物の防火安全性は建築基準法の防火規定と消防法の消防設備規則・防火管理規則によって担保されています。そして、その消防法令を執行するのが予防行政担当職員となります。この予防担当職員の日頃の地道な活動により潜在的に助けている人命は計り知れません。
では、その予防に従事する職員は何人いるのか。
前回、福岡市消防の全体の職員数が他都市と比較して少ないという話をしましたが、その中に占める予防担当職員は定められた基準では128人必要とされているものの、充足率は89.1%の114人。しかもその充足率は、
平成28年度は92.6%
平成29年度は91.9%
平成30年度は91.9%
令和元年度は89.7%
令和2年度は89.1%
と、毎年下がっています。ただでさえ少ないのに、充足率すら満たされていない。どころか年々下がっている。
福岡市は人口が増加し、それと比例して建築物も増加しているのに。

ただし、ここが福岡市消防局の素晴らしいところですが、福岡市の建物火災件数は、
平成28年中 216件
平成29年中 224件
平成30年中 206件
令和元年中 217件
令和2年中  188件
着実に減っています。火災予防に従事する職員数が減っているのに、火災数も減っている。
耐火構造建築の普及などもあるとは思いますが、ここは単純に予防職員の努力が実っていると考えていいと思います。

予防業務というのは、防火対象物が消防法に定められた規則を遵守されているのか確認し、違反が見つかった場合は行政指導や行政処分を出して問題の改善を図る業務ですが、その核となる業務が、いわゆる防火査察と言われるものです。
問題はこの防火査察です。
そこで防火査察に関して話を進めていきます。
福岡市は査察対象となる建物が令和2年度時点で57,395棟ありますが、その中で査察実施数は10,283棟。率にするとは17.9%です。
これを他都市と比較してみましょう。
・札幌市は実施率24.2%
・川崎市は実施率7.1%
・京都市は実施率26.6%
・神戸市は実施率16.6%
福岡市が突出して低いわけではありませんが、2割越えの都市がある中での17.9%は決して高いとはいえません。

ここで、疑問を持たれた方もいると思います。
「予防担当職員数が114人で1万棟以上の建物を査察したの!?」
違います。
防火査察というのは消防職員総出で行われるのです。警防部にいる職員も待機時や非番時にも予防の助っ人として査察を行うのです。だから1万棟以上の査察が行えるのです。これは裏技でも違法でも福岡市独自のルールでもなく、どこの消防でも行われていることですが。
そこで私は、予防職員と警防職員がどの程度の割合で査察を行っているのか、過去に遡って問いました。
・10年前は予防担当職員2,149棟、警防担当職員9,693棟
・5年前は予防担当職員2,975棟、警防担当職員8,456棟
・直近(令和元年度)は予防担当職員4,340棟、警防担当職員5,943棟
これは驚きました。
10年前は予防担当職員の査察実施数は約2千棟だったのに直近では4千棟。
予防担当の職員数はほぼ変わらないのに、査察数は倍になっている。

近年は予防行政の専門性も高まっており、消防法のみならず建築基準法や行政手続法等幅広い知識も求められるなど、予防担当職員をとりまく環境は厳しさを増しています。
また、火災予防のための査察を行う際には遡及適用条項、つまり、古い建築物にも最新の消防法が適用されるものもあるということで、これに反発する建築主やビルのオーナーも多く、指導是正にあたる予防担当職員には大きな負荷がかかっていると言わざるを得ません。このままでは予防担当職員は疲弊していく一方です。

以前、他都市の消防士から「福岡市消防はよくやっている、他都市消防本部の手本だ」と言われたことがあります。随分と誇らしく思いましたが、しかし、内実は決して余裕のあるものではない。その評価を支えるのは厳しい環境に置かれながらも日々の備えを怠らない消防職員の頑張りに依るところが大きいのではないでしょうか。

総務省消防庁の予防課長や防災部長を歴任した東京理科大学の小林恭一教授によると、「消防の業務は身を挺して社会を支える崇高な業務だが、他の行政の失敗を消防官のリスクと引き換えに後始末する、という側面を持っている。土木行政や都市行政が十分でなかったがゆえに起こった土砂災害で、消防官が殉職したりするが、消防官は一方的にリスクを引き受けるだけで土木行政や都市行政に注文をつけることはできない」と述べています。
与えられた環境で文句を言わず、ひたすらに市民の安全確保のために危険業務に従事する、というのは美談かもしれませんが、消防職員の崇高な精神に頼ってばかりではいけません。いずれ限界が来ます。
これは、予防担当職員含めて、職員が個人の力でどうこうできる話ではありません。前回お話しましたが、市には「市町村消防の原則」のもと、消防職員のより一層の安全確保や意欲的に業務に取り組めるような環境整備を図る責任があります。

何かあってからでは遅い。しかし、行政というのは何かあってからでないと動かない。
災害や大火事も起きてみてから、色んな課題点が浮き彫りになって初めて「じゃあ予算付けて強化しましょう」ということになるんでしょうが、それでは守れた命も守れなくなります。失われた命は戻りません。

今回の補足質疑では、消防行政に対する執行部との温度差を感じました。
今回の質問作成にあたっては、現職の消防士からも色々とヒアリングをした上で作成しました。これが生の声と確信しています。
一消防ファンとしては見過ごせません。今後もしつこく消防を追っかけていこうと思います。

 
  

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