議会閉会中、議員という人間は一体何をやっているのか。

これは、巷間でよく取りざたされる話です。
「年4回の定例会しかなくて、しかもその定例会はそれぞれほんの2週間程度で、ということは議員の年間実働日数は100日程度だ!それなのに高給取りでけしからん!」
このような、正しいんだか間違ってんだか分からないような認識でお叱りを受けることがたまにあります。
議員報酬というものが何の活動に対しての報酬なのか、そこは学問的にも議論が分かれているところですのでここでは軽々に述べませんが、とにかく「議員って休みが多いのに給料高くていいねぇ」と本気とも冗談とも嫌味ともつかぬことを言われるのは日常茶飯事。
そこで、議員というものが議会がない時に何をしているのか、ブログでお話ししていきたいと思います。多くの議員は多岐に亘って活動をしていますので、それぞれの活動を説明するために数回に分けてお話しします。

今回は「チラシ」についてです。
話を進めるうえで、まず大前提を押えておく必要があるのですが、議員が出すチラシには大方2つの目的があります。
一つは、政治(市政などの行政)への関心度を高めてもらうための問題提起や提案、施策の紹介、事業報告等→議会報告、議会通信、議会だよりの類
もう一つは、議員個人への関心度を高めてもらうための人物紹介や日常活動の報告、政治信条や公約・政策の紹介→立憲民主号外、後援会報、選挙チラシの類
ここを混同すると、少しややこしくなってしまいますので、そこは整理していただきたいと思います。
まずは、私が定例会閉会後にが欠かさず出している(私が所属する会派「福岡市民クラブ」の議員は皆そうですが)「議会通信」についての話です。
福岡市では議会通信作成費用に政務活動費の使用が認められている関係上、特定の政党を宣伝するような内容には厳格な規定があります。「お前、立憲民主党の議員なのにチラシに立憲のりの字も無いやないか!」と思われた方、そういうことですのご理解ください。

さて、「議会通信」や「議会だより」、これは皆さん一度は目にしたことがあると思います。
朝の駅で配られていた、家にポスティングされていた、事務所から郵送されていた、新聞広告に入ってた、様々な機会で目にすることがあるでしょう。
しかし、どれだけの人が内容を覚えているでしょうか、というか、内容を読んでいるでしょうか。恐らくは、ほとんどの人が「手には取ったけど、誰のどんなチラシかまでは覚えとらん」これが正直なところだと思います。しかし、その市民感覚は我々には織り込み済みです。チラシだけに。

何万枚印刷してポスティングしてもそれを読んでもらえるのはごくわずか。その「ごくわずか」の方のために、(私は)心血注いでチラシを作成します。「理想のチラシ」というのは、言うまでもなく「見やすくて読みやすくてよく目立つ」チラシということになるとは思いますが、なかなかそうは作れない。一般的に縁遠い「議会」で議論されたこと、起こったことを、分かりやすく伝えるというのはそれなりに技術が必要なわけです。
もちろん、実際作成するのは専門のデザイナーとなりますが(議員によっては自分で作る人もいます)、どんなチラシを作るのかは己のセンスが基本です。取り扱うネタ、文字数、文字のサイズ、色使い、スペースの使い方、余白の使い方、写真のチョイス、これらをデザイナーとやり取りしながら固めていきます。
「言いたいことは分かりますけど、冗長すぎますよ」
「この色だとネタのイメージと合いませんよ」
「頂いた写真をこのサイズにすると画素がきついですね」
「文字多すぎるので、あと200文字削ってください」
「〇〇日以内に印刷あげたいから、今日中にデザインあげて」
「これ以上文字削れないから、他のところ削ってスペース確保して」
デザイナーからのダメ出しと私の無謀な発注。
こんなやり取りが、何十回と続きます。
で、これは私の勝手な都合なのですが、私には20年近く前に東京の議員事務所で使いっ走りをやっていた頃からお付き合いがあるデザイナーさんに仕事を依頼しています。なので、上記のやり取りは全て電話(お互いなぜかZOOMだのテレビ会議だの言い出さない)でやるため、双方、長年のよしみによる以心伝心で乗り越えています。これがまた疲れる元ではありますが…

こんなこと繰り返していると、どうしても迷路にはまり込む、そして政治家目線になってしまうので、スタッフや支援者さん、家族などに市民目線の意見を聞きながら、自分なりのチラシを作り上げるわけですが、議会閉会直後の数日間はこの作業を中心に時が過ぎていきます。
当然、「チラシ」に対しての議員の意識はそれぞれですので、そんな何日も時間をかけずにぱっぱと作ってしまう議員さんもいますし、中には作らない、という議員さんもいます。
それはそれぞれの議員の政治信条や活動方針に依るところですので、いい悪いの話ではありません。
ただ、私は、秘書をやっている時から政治家が発行する政策チラシにはそれなりの意義があると思っていましたので、当選してからは定例会後には毎回発行し、数万部単位でのポスティングと郵送を欠かさず行っています。

そこで一つの疑問が生じます。
さて、これだけ労力をかけて作るチラシにどれだけの効果があるのか。
これが営利目的の広告チラシとなるとある程度の効果測定の方法はあります。例えば、クーポンを組み入れてその反応数を測定する、セールの日の来店数を比較する、専用フリーダイヤルを設ける、などですね。
しかし、これが政治家のチラシとなるとなかなか難しい。HPのQRコードを挿入してそのアクセス数で判断、というのもありますが、お年寄りなどはスマホでQRコードなどなかなか使いませんし、効果測定の手法としては限定的です。
ということで私、昔秘書をやっていた頃、この効果を計るために4,000軒の無差別戸別訪問をしてアンケートを取ったことがありました。
(ここからは「議会通信」に限定せず、全般的な政治家が発行するチラシについてです)
選挙をほぼ意識しない任期2年目という平時に、議員が全戸ポスティングした場合、ポスティング完了から1ヵ月の間、有権者はチラシに対してどういう意識でいるのか。
以下、当時の記録です。
〇訪問数・・・4215軒(戸建てのみ、含店舗)
〇対応数・・・2010人
〇チラシの存在を知っていた・・・848人(対応数の約42%)
〇その内、誰のチラシか覚えていた・・・311人(対応数の約15%)
〇その内、内容を読んだ・・・245人(対応数の約11%)
〇その内、内容を覚えていた・・・110人(対応数の約5%)
〇その内、何がしかのアクションを起こした(事務所へ電話、議員に会った時に内容について尋ねる、等)・・・4人(対応数の約0.2%)
※さらに「その議員に投票しますか」という質問を加えれば良かったのですが、当時の私にはその図々しさも勇気もありませんでした。

この数字をどう捉えるか「効果有り」とするか「やっぱり意味無し」とするかはそれぞれだと思いますが、一般的に営利目的の反響率(上で言うところのアクション)は0.01%~0.03%(新聞折込だとこの半分)と言われていますので合致すると言えば合致します。
配布エリアや配布枚数、内容、当該地域の抱える時事問題などでこのパーセンテージは全く違うものになるとは思いますが、私個人としては、ここで重要なのは「誰のチラシか覚えていた」という項目です。
「なんか政治家のチラシがあったなぁ」を覚えていても「誰の」か覚えていなければ意味無いですし、「誰の」ということさえ覚えていてくれれば次に繋がります。「内容は覚えてないけど、なんか田中とかいう議員のチラシ見たなぁ」と少なくともそう覚えていてもらえれば、定期的に発行・お届けしているうちにいつかは「仕方ねぇなぁ、たまには読んでやるか」となるかもしれません。読んでもらえれば共感してもらえるかもしれませんし、共感してもらえればその先のもっといいことだって無くはありません。
もちろん、最初っからじっくり読んでいただければ(それを目指して作ってますが)それに勝る喜びはありませんが、選挙が遠いのであれば政治への関心度も高くはないでしょうから、目を通してもらえないのも一方では理解できます。

ですので、議員の中には「記憶に残す」その一点のみに集中してチラシを作成する人も大勢います。
とにかく目立つチラシ、とにかくインパクトのあるチラシ、とにかく内容が一目で理解できるチラシ。平時のチラシはこれで勝負して、選挙が近くなれば文字数を増やして細かい政策を述べる。
不自然なほどのでかい文字、どうやっても噛み合わない配色、手抜きかと疑うばかりの写真・グラフ・アニメーションの多用。これは手を抜いているわけでも議員にセンスが無いわけでもなく、考え抜いた結果そうなっているのです。(もちろん、深く考えずに惰性で作られたであろうチラシも散見されますが)
私の知り合いの議員など、笑いどころが分からない四コマ漫画の掲載に加えてあまりにどぎつい色使いでセンスの欠片も感じなかったので、そんなチラシでいいのかと尋ねたところ、「あえてそういうチラシにしている。だって、その方が逆に目立つし記憶に残るでしょ。」とサラリと言われました。
確かに、あまりにセンスが良すぎるとマンションの広告などと混同されて目に留まらないことも考えられます。

これは余談ですが、街中にはるポスターもそういう考えで作成している議員も大勢います。センスが良すぎるポスターは周りと調和が取れすぎて目立ちません。あえて顔をでかく、あえてきつい色の組み合わせ、あえてのセンスで自己主張するわけです。
で、これも余談ですが、たまに「今の時代に何万枚も紙媒体のチラシを作るなんて環境に優しくない」というご意見をいただきます。仰ってることはよく理解できるのですが、紙媒体はパソコンなどのディスプレイで見るより前頭前皮質がより強く反応することで記憶に残りやすく、感情に働きかけやすいと、脳科学の研究で明らかになっています。こうなると、やはり紙媒体のチラシを出したくなるのが政治家の性。
選挙もそうですが、政治活動と紙媒体の切っても切り離せない関係性はもう少し続いていきそうです。

政策チラシというのは、本当に千差万別です。上記のアンケートのどこにボーダーラインを引くかで同じ政策チラシでも全く違うものとなるはずですし、導入部でお断りした通り議会報告と政党機関誌でも誌面の意味合いは全く異なったものとなります。
何が効果的で、何が意味無いのかはっきり言って分かりません。私のチラシも11号を数え、一体何万枚刷って配って届けたのか、もう分からなくなりましたが、果たしてどれだけの市民に響いているのか見当もつきません。「細かいことは何でもいいから出すことに意味があるんだよ!」という人もいれば「政策をしっかり書いて、読まれてこそ意味がある!」という人もいますし、中には「こういうチラシじゃ選挙勝てんよ!」と親心で言ってくれる方もいます。
しかし、結局は自分の責任です。
これまでに数えきれないぐらいの政治家のチラシ、ある意味サンプルを見てきましたが、「このチラシいいねぇ~」はあっても「こういうチラシなら間違いなし」というチラシには出会ったことありません。
ですので、私としては最終的には「伝えたいことをしっかり書いたチラシを定期的に発行する」にシンプルに落ち着きました。
その結果、私の悪癖が露呈し、文字数多めな読むのがしんどいチラシとなりますが、間違いなく心を込めて作っています。
6月定例会が閉会し、間もなく議会通信の最新号が出ますが、そのあたりを少し分かっていただいて時間に余裕のある時は目を通してもらえると嬉しいです。

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