令和4年第一回定例会が閉会しました。
 2月16日の極寒の中で始まった今定例会も、閉会日は3月25日ということであちこちで桜が咲き出しています。季節が一つ移り変わったということもあって、議案質疑をした初日がまるで遠い昔のように感じます。
 さて、この令和4年第一回定例会。メインは何かというと、それは「条例予算特別委員会」ということになります。そもそも、この第一回定例会というのは少々ややこしくて、この長い長い会期は大きく2つに分けることができます。
 前半部分、これは2月16日の初日から2月21日の5日間。
 ここでは、「令和3年度関係議案」が審議され、採決まで持っていかれます。主な議案としては「令和3年度」、つまり令和3年4月~令和4年3月までの予算を「補正する」一般会計補正予算案が挙げられます。私が2月16日に登壇して行った議案質疑もこの補正予算案についてのものでした。
 そして、後半部分。これが2月22日から3月25日までの期間となります。
 こちらで審議されるのは「令和4年度関係議案」。主なものは、もちろん「令和4年度一般会計予算案」。令和4年4月~令和5年3月までの、これからの一年間の予算を審議します。
 前半後半と言いながら、殆どの日程はこちらに割かれるわけですが、総額約1兆円の福岡市の予算(特別会計、公営企業会計を合わせると2兆円)を審議するわけですから、長丁場となるのも当然です。
 まずは市長の「令和4年度市政運営方針」から始まり、続いて市議会内各会派が市長に対して市政の方向性を問う「代表質疑」、そして、その代表質疑の中から一部を深堀して質問する「補足質疑」、さらにはその予算案を各常任委員会で細かく審議する「予算分科会」、最後は各会派の議員が特に関心のあることについて質問する「総会質疑」。これらを経て、執行部提案の予算を認めるか認めないかの採決が行われます。盛りだくさんです。季節が一つ変わるのも納得。

 さて、このように時間もかけて審議される非常に大切な「令和4年度一般会計予算案」ですが、これが議会の「否決」を受けたらどうなってしまうのでしょうか。
 たまに、アメリカでは、連邦議会が予算を否決し連邦政府機関が閉鎖するといったことがニュースになりますが、では、これが日本で、自治体で起こった場合一体どうなってしまうのでしょうか。連邦政府機関ならぬ、市役所、区役所、公民館などが閉鎖してしまうのでしょうか。
 以前、このブログで「決算が認定されなかったら(否決されたら)」というブログを書きました。結論としては、「特段、何も起きない」という身も蓋もないオチとなりましたが、では予算の場合はどうなのか、ここで述べていきたいと思います。

まず、地方自治体における「予算」というものはどう決まっていくのでしょう。
一般的には以下の過程を辿って決められていきます。
➀予算編成方針の決定
新年度の予算を作るための市長の方針が示されます

➁事業の洗い出し
新年度の事業の方針に沿って、見直すべき事業、新規事業などの検討がなされます

➂各局要求
予算編成方針に基づき、各局が、新年度に実施したい事業の予算を要求します

➃財政局調整
予算要求のあった事業内容について、新年度の収入(財源)見積もりと照合しながら、必要性・緊急性などを検討し、実施する事業を採択します。

➄市長報告及び査定
財政局長査定(調整)に基づく予算計上案の内容について市長に報告し、市長が予算案として決定します。

➅財政局長内示
財政局長段階の査定(調整)結果を各部局に提示します。

➆市長復活査定
財政局長内示結果に対して、再調整を要する場合に、市長の判断を求めます。

➇示達
復活要望されたものについての市長査定結果を各部局に通知します。

➈予算案の公表
第1回定例会への提出予定議案を議会運営委員会で説明し、あわせて予算案の内容を公表します。

➉議会による審議・議決
予算案は市議会に提出され、審議・議決されて成立します。

 このような過程を経て年度内で議会で議決されると、めでたく新年度から予算執行ということになります。
 この間、実に約半年。執行部は多大な労力をかけて、市民から預かった税金をどのように使うのか綿密に計画を立てていることになります。
 で、議会はどこから関わるのかというと、上でいけば➈と➉だけです。なんだか爪はじきにされている気もしますが、議会は2,3月議会で審議するのみですからそれもまあ致し方なしか。
 
 そんな予算編成の流れからも見て取れますが、「議会」という議決機関は予算編成に携わることはできません。予算方針を決定し、編成する権限は全て執行部側に属します。これが、「日本の地方自治は首長と議会の二元代表制といいながらも、内実としては首長の方が絶大な権力を持つ」と言われる所以でもあります。
 さらに言うと、議会は予算編成に携われないだけではなく、審議にあたって時間的情報的な制約もあります。
 新年度予算案というものが公表されるのはもっぱら2月の下旬。新年度の予算執行まで1ヵ月程度の時間しかない上に、執行部がどのような企図を持って新年度事業を行おうとしているのか、よほどこちらから詳しく尋ねない限り情報は降りてきません。6月や12月などの定例会に比べて会期としては長い長い予算議会ですが、「1兆円の使い道を審議する」という観点から見てこの1ヵ月は決して時間に余裕があるものではありません。同列に扱うものでは無いかもしれませんが、国会であれば通常国会召集の1月から3月末までほぼほぼ3ヵ月間、予算審議を行います。
 法律上は、予算とあわせて予算案説明書(アイキャッチ画像の冊子ですね)というものを議員に提出しなければいけないこととなっていますが、それを読んだところで予算の全てが分かるわけではありません。「こんなことに使おうと思ってます」は細かく書いてますが、「こういった理由で」とか「これをやるとこういう効果が期待できます」みたいなことはそこまで詳細に書かれているわけではありません。しばしば、「議員は予算議会では質問や追及するばかりで、建設的な提案が無い」などと言われますが、これはこういった制約も背景にあります。時間も情報も無いとなれば、とにかく、質問しまくるしかありませんし、不備があると思えばそれは追及するしか方法がありませんから。
 二元代表制の原則から言えば、首長だけではなく議員も住民を代表しているわけですから、予算編成に携わることがあってもいいのかもしれませんが、冷静に考えてこれはあまり現実的ではないでしょう。
 行政職員並みの政策知識と市政に対する現状認識、そして予算査定能力を有している議員が果たしてどれだけいるか。何十年も市政全般に携わってきた行政職員と、「議員になるまではまったく畑違いの仕事をしていました」というのも珍しくない議員というものが、果たして同じ土俵に立って予算編成にかかわることができるのか。
 答えは否という他ありません。
 仮に上記のような必要能力を有していない議員が予算編成に参加するとなると、税収を度外視した予算案になってしまう可能性も否定できません。自身の選挙区や地盤への利益誘導的な予算案にならないとも限りません。公平な予算編成を阻害する恐れがあり、市民生活に混乱を与えることにもなりかねません。   
 ちょっと小難しく言いますと、予算編成というものは執行機関の内部における政策の「選択」と「決定」の過程ということになりますので、予算が膨大なものとなり技術的にも複雑化した今日では、執行機関の長に予算発案権を専属させることが適当であると言えます。また、首長が一元的に処理することによって財政運営の統一を図り、責任の所在を明確にし、かつ、経理の適正を期するという趣旨もあります。
 なので、予算編成権は議会側には認められていないわけで、現状の選挙制度や議会制度を考えれば妥当と言えます。

 さて、話が逸れましたが、この予算審議、着地点としては3パターンがあります。
➀執行部が提出した予算案をすんなりと可決する
➁議会側が提出した修正案を可決する
➂執行部が提出した予算案に問題ありとして否決する

 ➀については、説明はいらないでしょう。
 問題は➁と➂です。
 
 まず、➁についてですが、
 議会は必要に応じて予算案を修正して議決する権限も有しています。(前述の通り原案編成の権限はありませんが)そこで問題となるのが、市長の予算発案権との関係です。つまり、議会は執行部が編成した予算案をどこまで修正できるのか、ということです。
 修正案と一括りで言っても、予算額を増額するのか減額するのか、どちらのパターンもあり得る話ですが、まずは増額修正についてお話します。
 この増額修正については、予め法律上の話から行きますが、地方自治法第97条第2項において、
「議会は、予算について、増額してこれを議決することを妨げない。但し、普通地方公共団体の長の予算の提出の権限を侵すことはできない。」といったことが規定されています。
 早速分かりづらいですね。
 要するに、「予算を増額するための修正もできるが、原案に無かった新たな事業を追加するようなことはできない」ということです。なぜかというと、新たな事業を立案するということは、首長の予算趣旨を変更することになりかねないからです。
 単純に考えれば分かることですが、議会側に対して新たな事業を追加して修正することができるという権限が付与されてしまうと、これはもう議会側のやりたい放題になってしまいますよね。首長がどんな予算案を提出してきても突っぱねて修正、修正の繰り返しで議員がやりたいと思っている事業に手厚く予算を充てる、なんてことが可能になってしまいます。
 予算という行政の根幹の部分で市長の政策が反映されないとなると市長が全く意味の無い存在となってしまい、市長と議会の相互監視機能が働かなくなってしまいます。議会が暴走してしまうということです。
 
 一方で、減額修正ですが、これに関しては特段の制限はありません。
 ただし、「地方自治法第177条第1項に掲げる経費(義務に属する経費並びに非常の災害による応急・復旧経費及び感染症予防経費)を議会が減額する議決をしたときは、当該地方公共団体の長は再議に付さなければならない」、つまり「本当にいいんですか、もう一回考えてみてくださいよ」と議会に再考するよう求めなくてはいけないと規定されています。また、非常災害等に関する経費が含まれた減額修正の議決を再可決したときは、市長は当該議決を不信任の議決とみなすことができるともされています。話が穏やかでなくなってきました。
 
 なお、議会が予算案に対する修正を求める手段として、「予算組替え動議を提出する」という手法もあります。
 予算組み替え動議とは、執行部が提出した予算を撤回した上で修正して再提出することを求めるものであり、議会側が予算案を編成しなおす「修正案の提出」とは異なるものです。この組み替え動議は、あくまで執行部に対して予算編成のやり直しを求めるものですから、原案に無い新たな事業の追加を求めることも可能ということで使い勝手としてはこちらの方が格段にいいとされています。
 しかしながら、この組み替え動議に法的制約はありません。なので、「組み換え動議」自体が可決しても、市長はこの議会決定を突っぱねることは可能です。とはいえ、これを突っぱねるということは、予算案が否決されるということになりますので、結局は受け入れざるを得ないということになりますが。
 ここまで修正案、そして組み替え動議についてお話しましたが、これはあくまで新年度予算執行開始日の4月1日までの間に行われるもの。しかも、議会内での執行部と議会との攻防になりますから、修正しようがなんだろうが、これがとにかく可決されてしまえば、市民生活には何ら影響はでません。

 さて、一番大変なのが➂の否決です。
 何が大変か。理屈だけで言えば、否決となった場合は4月からの予算執行ができず、生活に著しい影響が出ることとなります。前述したアメリカのパターンですね。
 とはいえ、首長と議会の間に調整の余地があるのであれば、執行部は改めて所要の修正を施した予算案を作成し議会に提出し直すことで丸く収まります。これが可決されれば問題無し、というか市民への影響は限定的です。
 が、厄介なのは首長と議会が対立関係にある場合です。
 政治的信条的な面で首長と議会が折り合わなかった場合、延々と予算が可決されない可能性があります。そうすると一番の被害者は市民ということになります。なので、それだけは防がなくてはいかんということで、法律でいくつかの市民生活を守るための防護策が設けられています。
 まずは、「再議」ということになります。ここは少し難しいですが説明が必要です。
 原則として、再議に関する地方自治法第176条第1項の規定「普通地方公共団体の議会の議決について異議があるときは、当該普通地方公共団体の長は、この法律に特別の定めがあるものを除くほか、その議決の日(条例の制定若しくは改廃又は予算に関する議決については、その送付を受けた日)から10日以内に理由を示してこれを再議に付することができる」は適用がないとされていますが、当初予算案又はその他の予算案であっても、地方自治法177条1項各号に掲げる経費を内容に含むものを議会が否決した場合には、経費の削除として同条の適用があり、長はその予算案を再議に付さなければならないとされています。
 とっても難しいですね。書いてる私もわけ分からなくなりますが、簡単に言えば、
 「予算案が否決されたからといって市長は議会に再考を求める必要はないけど、義務的に払わなくてはいけない予算(職員の人件費や借金返済のための公債費、生活困窮者、高齢者、児童、心身障がい者等に対して行っている様々な支援に要する経費である扶助費)まで否決されたなら、議会に再考するよう求めなくてはいけない」ということです。
 再議に付した上で、それでも議会側が予算案を否決したとなると、いよいよ最後の手段として、義務的経費のみを計上した予算だけを専決処分(議会の同意を得ず、長のみの決定)で執行するという、いわゆる原案執行を行うことになります。もしくは、議会を説得しようが何をしようが年度内に次年度予算が成立する見込みがないとなった場合は、暫定予算といって、例えば「6月まで」とかの時限的な予算を組んで執行する場合もあるようです。ただし、この暫定予算というのは災害時や選挙、市町村合併などで予算審議ができなかった場合を想定しての措置ですから、首長と議会が対立して予算が成立しないといった極めて政治色の強い事態のことは想定されていないようです。
 原案執行でとりあえず新年度をスタートさせても、これでは最低限の市民サービスのみしか提供できませんので、新年度に突入後改めて予算審議がされることとなります。過去には暫定予算を繰り返し議決し12月までいってしまった、という自治体もありますし、長と議会が対立状態にある場合は、割とこういう事態は起こりうることのようです。
 
 なので、ブログのテーマに戻って「予算が否決されたら」ということの結論を言えば、「否決されても、最低限の自治体運営ができるよう幾重にも制度が設けられていて、アメリカのようにはならない。でも、年度を跨いだら場合によっては最低限の行政サービスしか提供されないことになる。さらに余談だが、行政職員は死ぬほど大変。」と言えます。
 まぁ、一安心と言えば一安心。不安と言えば不安。皆さんはどうお感じになるでしょうか。

 決算に続いて今回は「予算」に係わる色々について見てきましたが、自治体運営の根幹にかかわることですから今さら言うまでも無くやはり極めて重要なことです。その可否が市民に与える影響もかなり大きなものとなります。議員はその点をしっかり認識した上で予算審議に臨まなくてはいけない、ということは当たり前すぎるのですが、それに加えて、賛成するにしろ反対するにしろしっかりと市民に説明責任を果たさなくてはいけないでしょう。

 正直言って、私も今回このブログを書くにあたって改めて予算審議の過程について勉強しました。勉強したての時はあまりにも奥深いものすぎて後悔もしましたが、「市民への影響を考えればそれだけ議会、議員の責任は大きい」と身を律することにもなりました。
 
 次の統一地方選挙まであと一年。つまりは、今期で予算審議に係わるのは来年3月のあと一回です。責任の大きさを十分に噛みしめて、次の決算審議、予算審議には心して臨みたいと決意を新たにした今日この頃です。

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