インターンに来る学生がよく言うのですが、議員というものは議会に出席している以外は議会棟や事務所で政策の勉強や会議など、要するに机や書類に向かってばかりいるイメージがあるそうです。議員秘書のイメージにいたっては、議員会館などで議員の横に寄り添いながら分厚い手帳を片手に「先生、今日のご予定は○○時からアポが入ってます」的なことを言っているみたいな。

どんな議員や議員秘書も、そういった一面はありますが、それはあくまで一面。                                                  毎日そんなことばっかりやっているわけではありません。多くの議員や議員秘書は実際に有権者に接し、話を聞き、困りごとがあればそれを解決しようと現場で汗をかきかき活動しています。「道路に予算を」「こういった条例を作って」といった、正式な「陳情」は別にしっかりやるとして、そんな大そうな「陳情」というほどのこともない日常のお困りごとでも、有権者からSOSが来れば、それにどうにかして応えようと身を挺して働きます。ですので、先ほどのインターンの学生のようなイメージを持った人にそういった話をすると、「え!?そんなことまでするんですか!?」と驚かれることも珍しくもありません。最近は、草刈をしているSNSを見た方からその一言を言われました。「議員がジャージ着て草刈ってるって考えもしなかった」とも。                          

私はプロフィールにも書いていますが、政治の世界のスタートは地方議員の使いっ走りからでした。地方議員の事務所ですので有権者との関わり方も実に濃密です。事務所近所に限らず支持者の家族構成から家庭環境、果ては家庭問題まで把握しているなんてことは当たり前でしたし、加えて、大学卒業後にいきなり飛び込んだ政治の世界ですので右も左も分かりませんから、「それは秘書の業務の範疇ですか?」などの疑問すら湧きおこりません。ですので、議員から「ご近所の○○さんが困ってんだから、助けてあげなくては」と言われれば、何も考えず無我夢中で何でもやりました。よく、議員やその秘書は「何でも屋」と揶揄されますが、確かにそれはその通り。ジャージを着て草を刈るなど朝飯前。そして、そういった秘書時代の「何でも屋」体質は議員になった今も抜けることはありません。                                                                     そこで今日は「議会がない時は議員は何を」シリーズで「何でも屋」と題してお話しします。                                              相手方が判明してしまうものもありますので、稀有な経験全てをお話しすることはできませんが、「そんなことまでやるの!?」と言われたもののうちいくつかを以下にご紹介します。

<お祭りの出店>                                                                              これは別に議員や秘書でなく、一般の方であっても、地元の商店街や町内会に所属していれば役を担うことは多いでしょう。しかし、ここ数年は人手不足も加速しているようで、とにかくどんな議員事務所に行っても駆り出されました。さすがに調理などの専門性を要するものは任されませんでしたが、かき氷、水風船、綿飴、輪投げ、金魚すくい、などで子ども相手に売りまくっていました。

<田植え・稲刈り>※有権者以外からの頼まれごと                                                               これも人手不足の影響でしょう。田んぼや畑の仕事をお願いされることもしばしば。今時の田植えは専門の機械でやりますが、田んぼの隅っこなど機械が入れないところで人力が必要な場所などで力を発揮しました。ビニールハウスの上げ下げや、雑草の駆除、収穫なども。

<ツアーコンダクター>                                                                           後援会主催のバス旅行などとは別に、人手不足に悩む町内会や団体などの宿泊旅行やゴルフコンペを企画することもよくやりました。本職のツアーコンダクターのようなプロの仕事ではありませんが、旅行先の選定から宿の手配、ツアー客の募集と勧誘、当日のバスガイドまで、計画から旅行最終日まで全てに携わりました。天候は大丈夫か、申し込んだ人はちゃんと来るのか、事前入金はきちんとできているか、段取り間違えていないか、とプレッシャーばかりで、はっきり言って旅行に同行できるからといっても全く楽しい仕事ではありません。

<チケット屋>                                                                               これは、議員や秘書あるあるですが、とにかく色んなチケットを頼まれます。プロ野球やJリーグ、中央競馬(JRA)のG1貴賓席、大相撲の升席、人気歌手のコンサート、他にもまだまだ色んなチケットを頼まれますが、当然、手配できるものとできないものがあります。つてを辿ってお願いすればそれで済むチケットならいいですが、そういかないものは結局PCの前でクリックの連打です。夜中に一人でPC画面に向かっている時は「俺、何やってんだろう」とふと考えたものです。                                           余談ですが、私が扱った中で一番人気が高かったのが陸上自衛隊の富士火力演習でした。

<離婚や遺産分けなど、家庭内トラブルの仲介>                                                                本来であれば、こういった話は弁護士などの専門家にお話しすべきなんだろうと思いますが、そこに至る前段階での仲介はよく頼まれました。特に揉めている場合は、当事者に加えて第三者がいることでスムーズに話が進むこともあります。弁護士だ、裁判だ、という前に穏便に済ませたいという方にとっては議員や秘書というのは案外頼みやすいのかもしれません。もちろん、お金をいただくわけではありませんし、秘密を外部に漏らすことはありませんから。私が何か責任を持って断を下すようなことはしませんでしたが、しかし、人間の業、エグみといったものにじかに接するという意味では貴重な経験です。ただ、この手の話し合いに立ち会うのは本当に気疲れします。

<家出人・行方不明者の捜索>                                                                        実はこれ、意外と多くありまして、捜索に出かけたのは一度や二度ではありません。というのも、こういった話は、先ほどの家庭内トラブルでも言いましたが、まずは穏便に済ませたいという心理が働くみたいで、公になる(と誤解されている)警察に相談するよりも政治家事務所に相談、という方が実に多かった。これまで片手には収まらないぐらいの捜索のお手伝いをしました。私としては、一刻も早く警察に届けて大掛かりに捜索した方がいいと思うのですが(そう助言してきましたが)、身内の誰かが失踪するのを恥と感じる方もいるみたいで、「まだ警察には言いたくない」という言葉を結構聞きました。                                                                     そして、これも余談ですが、こういったご相談はなぜか夜中に電話がかかってきます。恐らく、日中は身内で頑張ったんだけど、夜になっていよいよどうしていいか分からなくなって… ということだと推察されますが、しかし、それにしても夜中に携帯で起こされることが多い。ですので、夜中に携帯が鳴るというのは私にとっては違う意味でピリッとします。         実際に保護できた時は本当にホッとしたものですが。

<夜逃げした家の荷物の運び出し>※有権者以外からの頼まれごと                                                        これは、大家さんからのご相談でしたが、「家賃滞納者が家財道具をそのままに夜逃げした。荷物を運び出してもらえないか」というものでしたが、これはなかなかきつかった。家賃滞納のままに夜逃げされた大家さんにとってはたまったものではないでしょうが、逃げた人にも逃げるなりの理由があったんだろうなと勝手に感情移入してしまう自分がいました。つい先日までこの家財道具で生活していたんだろうな、という生々しい痕跡はいやでも想像力を掻き立てます。実際の荷物運びの労力より、精神的に堪えた依頼事でした。

これまでの経験の中から、相手などプライバシーが特定されないものを思いつくままに書いてきましたが、ある意味で本当に色んな経験をさせてもらいました。いやらしい目で見れば、それもこれも全て票のためでしょ、となるのかもしれませんし、当時の私の心境には確かにそんな思いはありました。                                    しかし、「だれも気付かないところで、制度の間で困っている人って本当にいるんだ」と実感できたのもこれらの経験を通してこそ。                          そして、そういった個別の案件に無償で寄り添うといったことがどれだけ難しいことか、日頃「困ったときは頼って」と言っていながら本当にお願いすると黙殺されるといったことが実は多く存在するということもまざまざと見せつけられもしました。そういう意味で言えば、議員事務所というところが、お金が無い、生活に余裕がないなどの理由で専門家に頼れない人が駆け込むところの一つであったのは紛れもない事実です。 (祭りの出店の手伝いやチケット取りなどは可愛いものですが)                                     議員の仕事というものは本来、そこに住む人々が等しく安心して暮らせる制度を作ることです。ですので、個々の困りごとを解決するような上記のものは議員や秘書の仕事の本分ではないかもしれませんが、そうやって生身の生活者に接し、困りごとに真摯に耳を傾け、汗を流すことは決して無駄な仕事だとは思いません。ですので、今もスーツ姿で事務所に詰めているだけでなく、ジャージを身にまとって軽いフットワークで「現場」に出ていくことを心掛けています。

そういうわけで、何かお困りごとがある方、どうぞ遠慮することなく田中たかし事務所までご相談ください。ジャージを着て駆け付けさせていただきます。

 

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